ご安全に!この記事では、日々鉄鋼プラントの安定稼働を電気の力で支えている現役の第二種電気主任技術者である私が、普段どのような業務に取り組んでいるのか、そのリアルな日常と、この仕事ならではの「やりがい」や「大変さ」について、できるだけ具体的にお伝えしていきたいと思います。
「電気主任技術者って、具体的にどんなことをするの?」「鉄鋼プラントの電気設備ってどんな感じ?」「第二種電気主任技術者って、どんな責任範囲なの?」といった疑問をお持ちの方や、これから電気主任技術者を目指す方、特にプラントの仕事に興味がある方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
私が働く「鉄鋼プラント」と電気主任技術者の使命
まず、私が働く「鉄鋼プラント」について簡単にご説明します。鉄鋼プラントは、鉄鉱石や鉄スクラップを原料に、私たちの生活や産業に不可欠な鉄鋼製品(例えば、自動車のボディ、建物の鉄骨、橋梁など)を生み出す巨大な工場です。その生産プロセスは、原料処理から製銑(高炉)、製鋼(転炉)、連続鋳造、圧延といった複数の工程を経ており、それぞれの工程で非常に大規模かつ特殊な電気設備が24時間365日稼働しています。
- 超巨大なモーター群
鉄を圧延する圧延機には、数千kW~数万kW級の巨大なモーターが何台も使われています。 - 大電力消費設備
アーク溶解炉や誘導加熱炉など、瞬間的に街ひとつ分に匹敵するほどの電力を消費する設備もあります。 - 過酷な環境下の設備
高温、粉塵、振動、水蒸気といった過酷な環境で動作するセンサーや制御機器も多数あります。 - 複雑な制御システム
プラント全体の協調運転や品質管理のため、高度で複雑な電気制御システムが張り巡らされています。
こうした鉄鋼プラントにおいて、私たち第二種電気主任技術者は、主に電圧17万ボルト未満の自家用電気工作物の工事、維持及び運用の保安監督という重責を担います。私のプラントでは、数十kVの特別高圧で受電しており、構内の広範囲な電気設備がこの監督範囲に含まれます。ひと言で言えば、「電気に起因するトラブルで、絶対にプラントの生産を止めない、そして何よりも従業員の安全を確保する」これが私たちの最大の使命です。
リアルな業務「電気主任技術者の業務時間はわずか」
大きな使命をもってますが、実際に電気主任技術者の業務している時間はわずかです。だいたい月8時間で停電工事がある月で月16時間くらいです。
プラントでは電気設備の保全に携わる人がたくさんいるので、プレイヤーとしての業務はほぼなく、これらの人たちの業務を管理監督することが主な業務です。
では、具体的に日々どのような業務を行っているのか、ご紹介します。
官庁対応「法令遵守で正確に」

- 保安規定の見直し
保安規定とは、自家用電気工作物の安全を確保するために電気工作物の工事、維持、及び運用に関する保安の監督を誠実に遂行するための内部ルールのことで、作成し経済産業省へ届出しています。電気事業法の改正や社内組織変更に合わせて保安規定を改訂し、経済産業省へ改訂後の保安規定を届出してます。 - 工事届け、官庁検査
受電用遮断器や大容量変圧器の更新など法律で定められた工事を行う際には、工事着工前に経済産業省へ届出、工事の最後には使用前自主検査、完了後は官庁検査をうけます。基本的には電気設備担当者が実務をやり、電気主任技術者の私は書類チェックを行います。書類の誤記などかなり細かくチェックします。使用前自主検査では責任者として指揮します。また、写真撮影したりなどエビデンスをしっかり残す必要があります。 - 高濃度PCBの調査
PCBとはポリ塩化ビフェニル略称です。昔の変圧器やコンデンサの油にはPCBが含まれており、これが人体に有害なので2027年3月末までに処分する必要があります。特に高濃度PCBは電気事業法で電気主任技術者が確認することになっており、電気担当へ「よく探せ!もうないか?本当にないか?」と声かけしていました。いかんせ工場の敷地が広く歴史もあるので残っていないか心配です。 - 電気事故の報告
電気による感電災害や火災がおきた場合は経済産業省へ報告する必要があります。これは経験ないですね。起きないよう監督業務をしますが、いかんせ古い電気設備がたくさんあるので、事故が起きないことを願ってます。
受変電設備更新における仕様や図面チェック

受変電設備や高圧ケーブルの工事では、安全性、保守性、経済性の観点で仕様や図面をチェックします。
- 安全性
充電部との離隔距離や保全作業時の作業者の安全確保などの視点で問題ないのかチェックします。 - 保守性
30年先くらいの長期的視点での更新や能力増強を考慮して、レイアウトが問題ないかチェックします。将来更新する変圧器の設置場所や工事時の車両の通路などをよく考慮します。 - 経済性
全体構成や機器単体でのコストが過剰でないかチェックします。初期費用が高額だと更新する際も高額になってしまうので注意が必要です。
停電工事の対応「毎年の休日出勤」

私の勤めるプラントでは、年2回の構内全停電があり、そこで電気設備の点検や補修、更新、新設、改造を行っています。年2回の日は毎年計画的に○月の第□日曜日というように決まっています。電力会社もこのタイミングで改修工事を行うため日にちを固定してます。停電日が日曜日なのは、業務影響を最小限にするためです。平日停電できれば休日出勤せずに済むのにな。代休もとるけど、平日休んでも何もすることがない。「残業つけさしてくれ!」と毎回思ってます。
- 工事内容の把握
定期点検や定期補修、不具合が見つかった設備の補修など抜け漏れが無いか確認します。 - 停電操作と送電操作手順の確認
誰がいつ何をするか、操作に参加する全員でチェックします。安全作業するために欠かせない確認です。 - 停電日当日の監督
計画通り行われているかの確認。トラブルがあった場合にはどう対処するか関係者で話をし電気主任技術者が最終判断をします。
トラブル対応「頻度は少ないが、呼び出しはつらい」
受変電設備のトラブル自体ほとんど起きないです。少ない頻度でトラブルは起きますが、プラントでは24時間365日対応にあたる人が常駐してるので、電気主任技術者がトラブルで呼ばれることはほとんどないです。ただ、電話がきた時にはそこそこ大きなトラブルなので覚悟が必要です。
- 突発的な設備停止・警報発生時の対応
電気トラブルが発生した場合、昼夜問わず呼び出しがかかることもあります。「遮断器がトリップした!」「制御盤の電源が落ちた!」といった一報を受け、現場へ急行します。 - 原因究明と応急処置
図面や過去の事例を参考に、迅速にトラブルの原因を特定します。安全を確保した上で、可能な限り早期に生産を再開できるよう応急処置を施します。時には、制御プログラムの不具合解析や、複雑なシーケンスの追いかけも必要になります。 - 再発防止策の検討と恒久対策
応急処置で復旧した後、根本原因を徹底的に調査し、二度と同じトラブルが起きないように恒久的な対策(部品交換、設計変更、システム改修など)を計画・実行します。これが技術者としての腕の見せ所です。
保安教育「これから計画してやってくよ」

電気設備の保全に関わる人に対しての保安教育をする必要ありますが、してません。昔から。保安規定すら知らない人が多いです。はやく資料を準備して教育せねば。。。
手当はあるの?ないです
残念ながら電気主任技術者に選任されても手当はないです。責任が重くなるだけです。資格取得した時の奨励金が貰えたくらいです。電験2種で10万円。電験3種で8万円。2種と3種で差が小さくね!?って感じ。
選任手当が貰える会社も少ないですがあるようです。手当があれば少しはやる気がでますね。
管理職への昇格にもそれほど有利に働かないです。第2種電気主任技術者は3人必要ですが、私含め3人とも主任です。資格を持っていても成果や運が良くないと管理職にはなれないです。
選任経験を積めば転職で有利
鉄鋼プラントのように大規模な電気設備を有する場合は責任の重さを感じます。一方で貴重な経験を積むことができます。これは転職する時にとても有利に働きます。30代であればキャリアアップを目指せます。一生この資格で食っていく事が出来ます。30代後半で複数社応募してみましたが、現職より大きな企業の書類選考が通りました。普通この年齢だと書類選考すら通過できない。
これから鉄鋼プラントの電気主任技術者を目指す皆さんへ
鉄鋼業は、日本のものづくりを根底から支える非常に重要な産業です。そして、その心臓部である電気設備を守る電気主任技術者は、まさに「縁の下の力持ち」でありながら、プラントの安定操業に不可欠なキーパーソンです。
第2種電気主任技術者の資格は、決して簡単に取得できるものではありませんが、努力して取得すれば、鉄鋼プラントのようなダイナミックでやりがいのあるフィールドで活躍できる道が開けます。
「大きな設備を扱いたい」「社会に貢献できる仕事がしたい」「電気の専門家として成長したい」という熱い想いをお持ちなら、ぜひ鉄鋼プラントの電気主任技術者という仕事を選択肢の一つに加えてみてください。確かに大変なこともありますが、それを上回る成長と誇りを感じられる仕事だと思います。
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